LINEアプリの中で動く小さなサービス——LINEミニアプリを月に使うのは、2,900万人だ。
会員証、モバイルオーダー、ポイント確認。国内3万件超のサービスが、そこで来店記録、注文履歴、購買データを積み上げてきた。ミニアプリ経由でLINEの友だちになったお客さんは、90日後も約9割がつながり続けているというデータがある(LINEヤフー発表)——手軽さが、長期的な関係を生む。
しかしそのデータは、ミニアプリの外には出られなかった。広告にも、メッセージ配信にも、一切使えない状態だった。
2026年6月10日、LINEヤフーがその壁を取り払った。
ビジネスマネージャーと接続開始
今回ミニアプリが接続できるようになったのは「ビジネスマネージャー」だ。
LINE公式アカウント(お店から顧客へメッセージを送る仕組み)や広告など、企業向けLINEサービスをひとつの管理画面でまとめて操作できるツールで、LINEヤフーが提供している。
ここにミニアプリのデータが流れ込むことで、来店・購買の記録が初めてマーケティングに使える状態になった。
「特定の行動をしたお客さんだけにメッセージを届ける」「行動パターンが似た見込み客に広告を打つ」——「お客さんを知って、届ける」がLINEの仕組みの中で完結するようになった。ミニアプリの役割が、便利ツールからデータの入口へと変わった。
接続できるのは、LINEヤフーの審査基準を満たした「認証済みミニアプリ」に限られる。
条件や手順の詳細はLINEヤフーが個別に案内しており、対象範囲は順次拡大される予定だ。
なお、こうしたデータ活用においてはユーザー(消費者)の同意が前提となる。LINEヤフーは個人情報の取り扱いに関するガイドラインに従った運用を事業者に求めており、広告配信やターゲティングに使えるデータの範囲は、ユーザーが同意した内容に限定される。
配信と広告に来店データを活用
来店状況で配信を出し分け
これまで店舗がLINEでメッセージを送る場合、「友だち全員に一斉配信」がほぼ唯一の選択肢だった。
来店履歴も購買記録も、配信の仕組みとはつながっていなかった。
接続後は違う。
「2か月間来店していない人にだけクーポンを送る」「先週注文したお客さんには関連商品を案内する」——ミニアプリの利用記録をそのまま配信の条件にできるようになった。
絞り込み配信の効果を示す数字がある。
JR東日本はJRE POINTのLINEミニアプリでLINE IDとポイントIDを連携し、特定ユーザーへの絞り込み再配信でメッセージ開封率71.3%、クリック率24.3%を記録した(LINEヤフーが公開した導入事例より)。一般的なメルマガの開封率は20%前後とされる。絞り込んで送ることで、反応率が3倍以上変わる計算だ。連携者数は4年で約4.4倍に増加した。
今回のビジネスマネージャー接続が広げるのは、この「絞り込み配信」を使える事業者の数だ。
これまでミニアプリの来店・購買データを配信条件に使うには、別途データ連携の仕組みが必要だった。それがビジネスマネージャー経由で直接参照できるようになる。より多くの事業者が、こうした精度の配信を実行しやすくなる。
LINE広告のターゲティングにも来店データを活用
CVR(広告を見た人が実際に購入・来店する割合)を高める面でも、この接続が機能する。
ミニアプリに蓄積された来店予約や注文履歴をビジネスマネージャーに集めることで、「今来てくれているお客さんと行動パターンが似た人」にLINE広告を出せるようになった。
闇雲に広告を打つのではなく、見込みの高い層に的を絞る。
ミニアプリが会員基盤の拡大にどれだけ機能するか、先行事例がある。
3COINSなどのブランドを展開する株式会社パルは、LINEミニアプリでデジタル会員証を導入した。会員登録のハードルが下がり、新規会員数は導入前の2倍に増加。3COINSでは新規会員の8割がミニアプリを選択し、LINE経由のEC売上は前年比5倍に伸びた(LINEヤフーが公開した導入事例より)。今回の接続によって、こうして拡大した会員基盤の行動データが広告ターゲティングに直接使えるようになる。
「カートに入れたまま買わなかった」「来店が3か月途絶えた」——そうした離脱のタイミングをミニアプリで特定し、LINE広告で再アプローチする手法も広がっている。
LINEを使う2,900万人が残した来店・購買の記録は、店舗にとって「誰が来て、何を買ったか」を知るための資産だ。その資産が初めて、メッセージ配信や広告という「届ける手段」と接続された。
ここで挙げた事例はいずれも、JR東日本や3COINSなど規模の大きな事業者だ。中小規模の店舗がこの仕組みを現実的な選択肢として使えるかどうかは、まだ見えていない。

