LINEで予約・注文・顧客管理が完結
LINEヤフーが2026年6月、飲食店と美容サロン向けの専用サービスを全国向けに正式提供として開始した。
「LINEレストランプラス」と「LINEビューティープラス」——この2つが登場したことで、LINE公式アカウントの役割が根本から変わった。
これまでのLINE公式アカウントは、店からクーポンやお知らせが届くだけのツールだった。
今回から違う。予約・注文・顧客管理、そして決済まで、すべてがLINEの中で完結するようになった。
この変化が持つ意味は一点に集約される——お客さんが新しいアプリをインストールしなくていい、ということだ。
日本でLINEを使っている人は1億人を超える。
スマートフォンを持っていれば、ほぼ全員がすでに使っているアプリだ。
その「誰もが既に持っているアプリ」の中で、予約から注文まで全部済んでしまう。
店側にとっては、お客さんに「まずアプリを入れてください」と頼む手間がそもそも存在しない。
飲食と美容がまず選ばれたのには、はっきりした理由がある。
LINE公式アカウントを活用している業種のうち、飲食が15%、美容が14%でトップ2を占める。
合わせると飲食約45万店、美容約38万店の計83万店が対象になる。
LINEをすでに使いこなしてきた業種に向けて、そのLINEをさらに深く使う基盤を整えた——そういう順番だ。
飲食と美容で何が変わるか
飲食:注文と予約がつながる
飲食店での変化の核心は、予約と注文が「一本の線」でつながることだ。
これまで予約はポータルサイトか電話、注文は来店してからメニュー表——という流れが当たり前だった。
新サービスでは、お客さんがLINEで席の予約を入れた流れのまま、スマホから料理を選んで事前注文(モバイルオーダー)と支払いまで完了できる。
来店前に注文データが厨房に届くため、スタッフが席を回って注文を取る手間が消える。
この仕組みを支えるのが、LINEヤフーが買収した飲食店向け予約管理システム「トレタ」との統合だ。
グループ内の会社であるトレタはPOSレジ(店のレジシステム)とも連携するため、予約・注文・会計のデータがひとつに集まる。
データの管理責任がLINEヤフーグループとして一本化される点は、外部事業者との単なる業務提携とは性格が異なる。
店頭では、スマートフォンをかざすだけでLINE公式アカウントを友だち追加できる「LINEタッチ」が、来店客との接点をその場で作る。
美容:カルテと空席の自動通知
美容サロンで変わるのは、これまでスタッフが手で回していた「常連さんへの声かけ」だ。
施術の履歴を記録する「電子カルテ」がLINEと連動し、来店から一定期間が経つと自動でリマインドが届く。
空席が出れば、来てくれそうなお客さんへの案内も自動でかかる。
AI機能「Agent i」がカルテデータを読んで次回来店の最適なタイミングを判断するため、スタッフが一人ひとりを管理しなくていい。
こうした仕組みを先行して使っていたサロンでは、すでに数字が動いている。
メンズ眉毛サロン「Me.rebo(メレボ)」は、リマインドとサンキューメッセージの自動送信を導入したことで、リピート率が25%から65%に跳ね上がった。
香川県の美容室「storia.f(ストーリアエフ)」では、現在予約のほぼ全件がLINE経由に集約されている。
どちらも、スタッフが意識して動いた結果ではなく、仕組みが自動で動いた結果だ。
メッセージ配信から店舗基盤へ
今回の2つのサービスが対象とするのは、飲食約45万店・美容約38万店——合わせて83万店の市場だ。
LINEヤフーはこの市場に月額制のサービスとして入り込み、継続収益の新しい柱に据える狙いがある。
月額の料金体系は現時点で公表されておらず、今後各サービスの案内とあわせて明らかにされる見通しだ。
この展開を支えるため、2025年7月、LINEヤフーは「LINEヤフービジネスパートナーズ」という専門子会社を設立した。
全国の飲食・美容店のデジタル化を現場で支援する役割を担う会社だ。
今回のリリースは、その子会社が本格稼働した最初の大きな一手となる。
店の経営者から見ると、選択肢がはっきりしてきた。
ホットペッパーなどの予約ポータルサイトへの掲載を続けるか、LINEを使って自前で集客するか——だ。
予約ポータルサイトは集客力があるが、掲載料が毎月固定でかかる。
小規模サロンが掲載プランを見直してLINE予約に軸を移した場合、年間約127万円の固定費削減が見込めるとのシミュレーションをLINEヤフーが示している。
ただしこれはLINEヤフー自身が算出した試算であり、実際の効果は店舗の規模や現在の契約内容によって変わる。
そもそも、デジタル化に手をつけられていない店は多い。
複数の業界調査によれば、従業員100人以下の店舗の半数超がいまだ着手できていないとされる。
LINEヤフーが飲食・美容を最初のターゲットにした背景には、この業種の顧客がすでにLINEを日常的に使っているという事実がある。
新しいツールを覚える必要なく、使い慣れたLINEの延長でデジタル化が完結する——そこに勝算を見ている。
今のタイミングで動いた理由がもう一つある。
2026年秋、LINE公式アカウントの配信料金の仕組みが変わる予定だ。
現在は全顧客に一斉配信する方式で、配信数が増えると追加メッセージ料金がかかる。
今後LINEヤフーは、顧客データを活用して届ける相手を絞る「個別配信」への移行を推奨する方向に動いている。
今回の新サービスで積み上がる「誰が・いつ・何を頼んだか」というデータは、秋以降の配信コスト最適化に直結する。
仕組みを整えた店と、そうでない店の差は、この秋から広がっていく。

