能登半島地震から2年が過ぎた2026年3月、ある取り組みが全国的な評価を受けた。
「企業ボランティア・アワード」——被災地で社員の専門スキルを組織的・継続的に活かした企業を表彰するこの賞で、大賞に選ばれたのだ。
5月12日、能登官民連携復興センターとLINEヤフーが共同でオンライン活動報告会を開催した。
そこで報告された数字が、この1年間の積み重ねを示している。
報告された取り組みの名は「プロボ能登」だ。
LINEヤフーと能登官民連携復興センターが共同で運営する、企業の専門人材を被災地の復興活動につなぐプラットフォームである。
プロボ能登は、都市部の企業の社員が自分の専門知識を使って能登の団体を手伝う——その仕組みを、複数の企業にまたがって組み立てたものだ。
2025年1月に正式発足してから約1年。
LINEヤフー、NEC、サイボウズ、デンソーなど9社が参画し、累計96人の社員が38件の復興プロジェクトを担った。
IT大手だけでなく、自動車部品メーカーのデンソーが名を連ねるなど、支援の輪は多様な業種に広がっている。
その背景には、現地の深刻な現実がある。
能登半島の先端に位置する珠洲市では、2022年比で人口が34%減少した。
復興を担う担い手が根こそぎ失われた現場に、都市部の専門人材をオンラインで届ける——プロボ能登の出発点はそこにある。
古材管理にAI——現場が変わった支援事例
38件のうち、遠隔支援の実態が最もよく伝わるのが古材管理のプロジェクトだ。
古民家の古材をAIで管理
能登の集落では今も、震災で壊れた古民家の解体作業が続いている。
取り壊される建物から、柱や梁(はり)といった古材が大量に救い出されている。
捨てるには惜しい素材だ。しかし「誰がどれをどこに保管しているか」が管理しきれていなかった。
一般社団法人「のと復耕ラボ」が進める『のと古材レスキュープロジェクト』に、NECとLINEヤフーの社員が遠隔で入った。
生成AI(人工知能)を使った在庫管理システムを構築し、どの古材がどこにあるかをデータで追えるようにした。
それだけではない。
現場で動くのは、ITに不慣れなボランティアたちだ。
高度なシステムを渡しても、使いこなせなければ意味がない。
そこで、スマホで確認できる簡易マニュアルもあわせて整備した。
システムを納品して終わり——ではなく、現場が実際に動けるところまで伴走した。
自動車学校から伝統工芸まで
38件のプロジェクトは、古材管理だけではない。
「能登自動車学校」では老朽化した公式サイトをリニューアルし、飲食店「すずキッチン」や「持木歯科医院」のSNS運用も、都市部の社員がオンラインで担った。
どれも「やりたいが、手が回らない」という現地の声に応えるものだ。
NPO法人「シングルマザー応援団」には、広報・PR支援を専門とするリベロとデンソーが入った。
3カ月間で3本のプレスリリースを制作・配信し、活動を外に届ける仕組みを整えた。
現地スタッフの負担を減らしながら、団体の認知度を上げるという実務支援だ。
「人がいない」能登——なぜ遠くから手が届くのか
珠洲市では、2022年比で人口の34%が失われた。38件の支援が生まれた背景に、この数字が示す現実がある。
「物資より人」——現場が必要としたもの
住民が去った後も、地域に残った人々の負担は重くなるばかりだ。
自治体の職員も相次いで退職し、復興を担うはずの行政の現場も人手が足りていない。
活動報告会で能登官民連携復興センターは「現地では『やりたいことはある。でも、動かせる人がいない』という状況が続いている」と説明した。
現場が必要としていたのは、物資ではなかった。
「外から来て、散らばった課題を整理してくれる人」——そういう役割へのニーズが高い。
能登官民連携復興センターが着目したのが、遠隔支援という形だ。
プロボ能登は現地に常駐しない。オンラインを基本に、約3カ月のプロジェクト期間で、現地団体が自分たちで動けるようになるまで伴走する。
現地に来なくていいから、都市部の専門人材が参加しやすい。現地は住む場所を用意しなくていいから、受け入れやすい。この構造が、マッチングを可能にしている。
復興のフェーズも変わってきた。
壊れたものを直す段階から、商売や暮らしを立て直す段階に入った。
今は「お店のウェブサイトを作りたい」「SNSで情報発信したい」といった依頼が増えている。
ECサイトの構築や広報支援——こうした依頼は、現地に来なくてもオンラインで完結する。遠隔という形が、ますます理にかなっている。
3年で300人参加を目指す
プロボ能登は、3年で300人の参加を目指している。
現時点で累計96人。目標までの道のりはまだ長い。
ただし、数字の積み上げよりも問われるのは、支援が終わった後だ。
3カ月の伴走が終わり、企業の社員が離れた後、現地団体は本当に自走できているか。
そこに答えが出るのは、これからだ。
被災地支援の現場では「支援者が去ると止まる」という繰り返しが起きてきた。プロボ能登が積み上げてきた38件が、その先を示せるかどうか——能登の復興は、まだ途中にある。

